水たまりは希望を写している

スマホのカメラが進化するほど使い勝手が悪くなるという罠

最近のスマホカメラのトレンド

まずセンサーの大型化が挙げられる。数年前まで 1/2 型よりも小さいセンサーが一般的だったが、最近はより大きなセンサーを搭載するのが当たり前になった。そして一部のスマートフォン、AQUOS R6 (LEITZ PHONE 1) や Xperia Pro-I は、1 型センサーを搭載している。これはお高めのコンパクトデジタルカメラで採用されるくらいの大きさで、高感度時のノイズの軽減やボケやすさに貢献する。

そして明るいレンズの採用。絞り値が小さくなり、多くの光量を取り込めることからシャッタースピードが稼げるようになる。よって、暗い環境でも手ブレが起きにくくなる。また、被写界深度が浅くなり、背景がボケる効果も強くなる。

そしてメインカメラの広角化。数年前までは 35 mm 換算で 26 ~ 28 mm が一般的だったが、23, 24 mm を採用するスマホが増えてきた (超広角レンズを搭載しているにもかかわらず)。広角になるということは撮影できる視野が広がるということだが、広角になればなるほど被写体の像が歪む。

これらが合わさってしまうとどうなるのか

で、どうなってしまうかというと、使い勝手の悪いスマホカメラに仕上がってしまう

まずわかりやすい広角化から説明しよう。前提として、ほとんどのスマホにはメインカメラとは別に超広角レンズがある。メインカメラよりもずっと広角なレンズが搭載されている。

メインカメラが 35 mm 換算で 28 mm のスマホから 23 mm のスマホに買い替えたんだけど、適当に写真撮ってると「あ、めちゃくちゃ歪んでるな」と感じることが多くなった。なぜ超広角レンズが搭載されているにもかかわらず、メインのカメラの焦点距離を短くしてしまうんだい?

そして、巨大なセンサーと明るいレンズは、被写界深度の浅い写真を作り上げてしまう。もちろん一眼ほどではないが、接写するとそれなりにボケる。ピントを外したところがボケるというのは良いことではあるが、シンプルに喜べないのがスマホカメラの残念なところである。

よく言われる「一眼カメラで撮ったようなボケ」というのは、あくまでも開放絞りの状態で撮影したからボケるのであって、絞ることで “ボケない写真” も撮影することができる。ほとんどのスマホカメラには “絞る” という概念がないので、「このレンズの絞り値はこれ」と決まったらそこから絞り値を上げることはできない。

これの何が問題かというと、被写界深度が深くあるべき場面で良い撮影結果を得ることができない。スマホでは、人物や風景といった一般的な被写体とは別に、書類をスキャンする目的で撮影する機会が多いだろう。そういうときに被写界深度が浅いと困る。書類をスキャンする際に、書類の上部または下部のどちらかにピントが合わない、という経験をしたことはないだろうか? これはどうしようもすることができず、今のスマホカメラの限界である

試しに書類を撮影してみよう

試しに撮影してみよう。可変絞りを搭載した Galaxy Note 10 Plus を使用して、開放絞り (F 1.5) と絞った状態 (F 2.4) でそれぞれ撮影した書類を比較する。斜め 60 度くらいで撮影し、ピントは手前に合わせる。Adobe Photoshop の遠近法の切り抜きツールを使用して、スキャナアプリで取り込んだかのように補正する。

(画像クリックで原寸大表示。ファイルサイズ大)
(画像クリックで原寸大表示。ファイルサイズ大)

このように開放絞りで撮影すると、被写界深度が浅く後ろの方のピントが合っていない。絞るとある程度被写界深度が深くなり、それなりにピントが合った写真になる。

スマホカメラはどう進化すればいいのか

残念ながら、明るいレンズを搭載してしまったからには「これから暗いレンズを採用します!」とはなりづらいだろう。となると、可変絞りを実装するしかない。一般的な消費者向けスマートフォンにおいて、可変絞りが実装されているのは Xperia Pro-I と、Galaxy フラグシップ 2 世代 (S9, S10 シリーズ) しかない。

前者は現行機種だが、後者はもう 2 世代以上前の端末であり、現行機種ではこの機能がオミットされている。それはなぜか? 様々な理由があるだろう。コストがかかる。可動するので故障しやすくなる。絞ってもたいして解像感が上がらない1被写界深度のことではない。カメラレンズは適切に絞ると解像感が高まる。上の写真も絞った画像の方が文字の輪郭に切れがある。。そもそも一般人が求めている機能ではない。などなど……。

僕が可変絞りが絶滅しかけた理由のひとつに考えていたのが「そもそも可変絞りに関する API が用意されていない・サードパーティのアプリが対応しようとしない」というものであったが、調べたところ Android 5.0 の頃から既に可変絞りの API は実装されているようだ。しかし、API があるからといってそれをアプリが活用できているかどうかは正直、正確にはわからない2また、スマホ側がサードパーティなアプリに対してカメラの機能制限を行っていることもある。行儀が悪い。。もっとも、可変絞りのあるスマホの数自体少ないわけで、完全にアウトオブ眼中である可能性は十二分にあり得る。

ちょっと話がそれてしまったが、センサーサイズが巨大化し明るいレンズを搭載するようになった今日のスマホこそ、可変絞りを搭載すべきなのである。あと 5 年くらいで可変絞りが当たり前にならないかなぁ……とかなんとか。

  • 1
    被写界深度のことではない。カメラレンズは適切に絞ると解像感が高まる。上の写真も絞った画像の方が文字の輪郭に切れがある。
  • 2
    また、スマホ側がサードパーティなアプリに対してカメラの機能制限を行っていることもある。行儀が悪い。