水たまりは希望を写している

Samsung Galaxy Tab S8 (無印) 実機レビュー。One UI の重さだけが惜しい覇権 Android タブレット

Samsung Galaxy Tab S8 (無印) を入手したのでレビューする。

スペック概要

サイズ253.8 x 165.3 x 6.3 (mm) / 503 g
OSOne UI 4.1 (Android 12)
SoCQualcomm Snapdragon 8 Gen 1
RAM8 GB
内部ストレージ128 GB
ディスプレイTFT 液晶 / 11.0 インチ / WQXGA (2560 x 1600) / 120 Hz
バッテリー8000 mAh
アウトカメラ広角 (13 MP / 換算 26 mm / F 2.2)
超広角 (6.3 MP / 換算 13 mm / F 2.4)
インカメラ超広角 (12 MP / 換算 15mm / F 2.4)
その他USB 3.2 Gen 1 / ペン (S ペン) 同梱

はじめに : どうして iPad じゃなくて Galaxy Tab なの?

この表を見ていただきたい。

#Galaxy Tab S8iPad Air 5MatePad 11
価格 (ペンありで)9 万9 万6 万
SoC の性能良いめっちゃ良いそこそこ
リフレッシュレート120 Hz60 Hz120 Hz
その他の性能・機能めっちゃ良いめっちゃ良い良い
仕事用プロファイル使えるなし分からない (情報がない)
ルート化・脱獄できる (Knox 死亡)できないできない
備考One UI が重いiPadOSGMS がない

それぞれの点について優れているタブレットは太字にした。この太字の数が多かったのが Galaxy Tab S8 だったので、多数決的な感じで Galaxy Tab S8 に決まった。正直、iPad Air 5 のリフレッシュレートが 60 Hz じゃなかったらそっちを選んでいたと思う1Apple は 120 Hz に ProMotion という名前をつけてしまったから Pro モデル以外に “Pro” Motion を載せることができなくなってしまった説を推していきたい。

SoC、RAM

Geekbench での計測結果 : CPU / Compute

SoC は Snapdragon 8 Gen 1 で RAM は 8GB。現行機としては一般的なハイエンド端末のスペックである。Snapdragon 8 Gen 1 は前世代である Snapdragon 888 よりさらに “爆熱” と言われているが、動画視聴やゲームを遊んでいてもひどく発熱しているというわけではなく、割と余裕のある感じ。ゲームをポップアップで起動し、並列実行すると発熱を感じたが、問題無い範囲であると感じた。タブレット故に、スマートフォンより排熱に余裕があると考えられる。

Galaxy の One UI には仮想 RAM 機能も実装されているため、それも含めると実質 16 GB まで拡張することができる。Pixel や AOSP 系の Android と比べるとタスクキルが強めだが、4 つ 5 つアプリを起動してマルチタスクをこなす……というのは軽々とできるためタスクキルに悩まされることは少ないだろう。

外観

手に持つと 503 g の重さがずっしりと伝わるとともに、マットな質感を手で感じ取ることができる。一貫性のあるデザインは高級感を醸し出し、所有欲を満たしてくれる

ギリギリ片手持ちができる絶妙なサイズと重量。Samsung ロゴからカメラモジュールまでのデザインが好き。アンテナの線があるのでちょっとごちゃっとしてるけど、ワンポイントとして捉えることもできる。

ディスプレイ

11 インチ液晶で 120 Hz。解像度は 2560 x 1600。色むらはなく、発色も鮮やか。輝度も屋内なら十分。上位モデルとは違いカメラのノッチがないので良い。液晶なので画面の縁に影が見られるが、画面自体が大きいので使用中気になることはないだろう。ダークモードに設定すると完全に分からなくなる。

(動画を横で表示したときの図。矢印が 16 : 9 の動画を表示したときの空白。)

iPad とは違い画面の縦横比が 16 : 10 で、一般的な動画の縦横比 16 : 9 にかなり近い。動画を限りなく全画面に近い状態で観ることができる。

iPad と比べるとかなり横が長いので、イラスト制作ソフトなどを起動してツールウィンドウを複数配置しても余裕がある。液タブとして使うのもアリだろう2液タブにしては小さめなので上位モデルの Ultra をおすすめしたいところ。こちらは 14.6 インチ。

Samsung Notes3日本向けの Galaxy は Galaxy Notes に名称が変更されている。が、僕が買ったのは海外版なのでこのブログ記事では Samsung Notes に呼称を統一する。 は黒背景に白文字でノートをとることができるので、ノート取りがメインなら液晶な無印より有機 EL な + の方が良いかもしれない。

スピーカー

左右にそれぞれ 2 つずつ搭載されていて、ステレオとして動作する。スマホに付いてくるスピーカーより一回り大きく数も多いので、そこそこ迫力のある音が出る。音量も問題なく、特定の音域が強調されている感じもなくフラットな感じ。イコライザも内蔵されているので、好みの音色にすることが可能。先述したとおり画面比率が 16 : 9 に近いので動画視聴にピッタリである。

ステレオの位置は画面回転に追従する。位相も問題ナシ。

使用感 : アプリ・ゲームはサクサクだがシステム UI が重い・不安定

SoC が Snapdragon 8 Gen 1 ということもあり、アプリはとても良くサクサク動く。が、システム UI が重い。Galaxy が採用している One UI は、重いことで有名だ。同世代の Pixel、iPhone と比べて全くサクサク感がない。アプリは問題ないので、落差で余計にイライラする。タブレット向けに UI を変更しているからか、動作自体が不安定と感じるところもある。

Samsung Notes 以外にも、Noteshelf というノートアプリが内蔵されている。が、使い勝手はそんなに良くない。ペンの軌道に追従しなくなるときがあるし、録音などの機能は安定していない。

(Samsung Notes で下手な字をテキストに変換している様子。)

むしろ Noteshelf をタダで使わせておいて、「やっぱ Samsung Notes だわ」と思わせるためにプリインストールしてるんじゃないか? と思ってしまうくらい Samsung Notes の方が使いやすい。極力ファーストパーティ製アプリを避ける僕だが、これだけは外せない。有料でも良いから他の Android で使わせて欲しい。

One UI 4.1 : 多機能。ただし重い

……重い重い言っても仕方がないので、それ以外のことを書こう。

(左 : ゲームをしながらゲームをする / 右 : タブレット UI に最適化された内蔵アプリ)

One UI は素の Android にはない多機能さがウリである。コテコテにカスタマイズされた Android として ColorOS や MIUI などが挙げられるが、One UI は他の追随を許さないレベルのカスタマイズが施されている。マルチウィンドウや Samsung Dex、セキュリティフォルダやサイドバー。挙げたらキリのないほど、追加要素が盛りだくさんである。大画面用 UI の実装も多くのシステムアプリで行われていて、生産性が高い。Note シリーズでお馴染みのペンもシステムレベルで統合されていて、様々な場面でペンを活用することができる。ペン機能は他社には譲れない強みのひとつだろう。iPadOS とは違いナビゲーションや通知シェードをペンで操作できるのも良い。

Good Lock ファミリーのアプリを使えば、他の Android 端末ではできないようなカスタマイズができるのも素晴らしい。ステータスバーやナビゲーションバーの見た目を変更したり、履歴画面のスタイルを変更したり。Root 化せずともこのようなカスタマイズが楽しめるのは One UI の醍醐味である。

また、セキュリティ性の向上にも力を入れていて、Knox という独自のセキュリティ技術が組み込まれている。……まぁ、Android 標準の状態でもかなりセキュアな造りになっているわけで、Root 化やカスタム ROM といった楽しみ方をするオタクからしてしまえばただの “おせっかい” な訳だが。

さて、長所書いたので短所をた~んと4激うまギャグ。挙げよう。前節で書いたように、One UI は重いとにかく重い。詳しい理由は分からないけど、ゴリゴリにカスタマイズした結果がこれであろう。ジェスチャーや通知シェードの動作はローエンド端末かと思うほどモッサリしていて、安定感がない。アプリを起動してしまえば SoC 自体の性能が高いため良く動くが、ちょっとアプリを切り替えたり通知を見ようとすればモッサリした挙動になりストレスが溜まる。セットアップ直後のナビゲーションの設定がジェスチャーではなく 3 ボタンなのも、不安定なのを認識してるからなのではないか? と邪推してしまう。

2022 年 5 月末に配信されたアップデートで若干改善されたが、「あまりにもひどかったのがマシになった」程度で根本的に One UI が重いのは改善されていない。「不良が良いことをすると褒められる」みたいな?

むしろ、“One UI が重い” 以外に気になった点はない。カスタマイズはえげつないが、Android 標準の挙動を踏襲しているので癖を感じる場面は少ない

“重い” 以外で細かいことを指摘すれば、こんな感じだろうか。

  • One UI ホームのドロワーが水平方向にしかスクロールできない。Home Up をインストールすれば垂直方向スクロールに変えられるはずだが、なぜかそのオプションがない。タブレットだからか?
  • アイコンの形状が変えられない。Android 標準で実装されているのに……
  • 一部 UI のカタカナが半角

中華系の ColorOS や MIUI と比べれば癖がなく使いやすい。ここは素直に褒めたいし、Galaxy が人気の Android 端末であることもうなずける。が、こんな重い One UI が Android スマホの代表みたいな面しているのが気に食わない。

カメラ : 書類スキャンに適したカメラ。超広角はオマケ

広角レンズは F 2.0 で昨今のスマホカメラと比べると暗め。焦点距離はフルサイズ換算で 26 mm と、控えめの広角になっている。レンズは暗いしセンサーサイズも小さいため、ノイズ混じりの画像になりがちではあるが、タブレットに搭載されるカメラとしてはそこそこ良いといえよう。オートフォーカスに時間がかかる。

被写界深度が深いので、近年のスマホではボケがちな書類スキャンに適している。タブレットの使い方として書類リーダーという使い方もあるので、それを想定したカメラスペックなのかもしれない、というのは少し考えすぎか。

超広角レンズはおまけ程度の画質で、特に周辺部の光学性能が低く実用に堪えない。また、マニュアルレンズなので自由度も低い。SNS やブログに画像をアップロードするくらいなら耐えうるが、それ以上の利用用途には適さない。

広角レンズは FHD 60 fps 撮影可能なはずだが、なぜか標準のカメラアプリでは 30 fps に制限されている 5ported GCam をインストールすれば可能。

Galaxy 共通ではあるが、かなりシャープネスの強い写真が撮れる。撮影環境に依るが、輪郭にオーバーシュートがみられる。

これも Galaxy 共通だが、カメラアプリを起動した直後だとシャッターボタンを押してから撮影されるまでに若干のラグが生じることがあって、結構気になる。僕が Galaxy Note10+ を使ってるときからこんな感じで、改善される気配がない。

写真作例

※ 画像をクリックすると原寸大で表示します (ファイルサイズ大)。WebP の 95% に変換済。

(広角) F 2.0 / 3000 / ISO 32 / 3096 x 4128 / sRGB
(超広角) F 2.2 / 2700 / ISO 32 / 2896 x 2176/ sRGB
(広角) F 2.0 / 3000 / ISO 32 / 3096 x 4128 / sRGB
(超広角) F 2.2 / 2300 / ISO 32 / 2896 x 2176/ sRGB
(広角) F 2.0 / 550 / ISO 32 / 3096 x 4128 / sRGB
(広角) F 2.0 / 1700 / ISO 32 / 4128 x 3096 / sRGB

バッテリー

8000 mAh。ちょっと少なめか。だいたい 1 時間使用して 7 ~ 12 %バッテリーを消費する感じ。ハイエンド端末なのでそこそこバッテリー消費するが、常識的な使い方なら問題ない。

One UI はスタンバイドレインがひどいイメージがあったが、この端末はそれがみられなかった。Wi-Fi のみだからという可能性が高い。

指紋認証

電源ボタンに内蔵するタイプ。ほぼノーミスで反応し、画面内指紋認証と比べると速度や精度において優れているなと感じる。両手の人差し指を登録するとどんな持ち方でも自然に認証できる位置に来るのでやりやすい。親指も登録しておきたいところだが、最大 3 つまでなのでどちらかの手のみになる。

顔認証

シングルカメラによるただの顔認証。Face ID のようなセキュアさはないものの、精度を向上させるオプションが設けられていたり、目を開いていないと認識しないようにできたりと、一定の水準は満たしている。

総評

OS の不安定さがすべてを引っ張る Android タブレット

SoC や RAM はごく普通のハイエンド。ディスプレイもスピーカーもよくできていて、ハードウェアだけ見れば満足のいくものだ。

だが、この Galaxy Tab S8 最大の弱点は「OS の不安定さ」だろう。これがすべてを台無しにしている。ハードウェアが 100 点でも、ソフトウェアが 30 点なら「良い製品」とは言いがたい。せっかく UI はタブレット向けに最適化されていて、Samsung Notes も高機能で使いやすいのにもったいない。

幸いなことに、ソフトウェアはアップデートによる “改善” が可能だ。One UI 5 では是非とも安定性に注力してほしいね。

あえて無印モデルを買う意味

国内ではこれの上位に当たる + と、最上位の Ultra の 2 モデル展開。残念ながらこの無印モデルは国内未発売となった。

あえて Galaxy Tab S8 の無印モデルを買う意味を考えてみる。一番は値段の安さだろう。僕は実質 7 万強で買えた。iPad Air 5 (+ Apple Pencil) を 7 万円台で買うのは難しいので、ここら辺のスペックで狙っている人は選択肢に入るのではないだろうか。iPad Air 5 の対抗馬としては十分なり得る。僕は「ミドルハイ以上、有機 EL はなくても良い」が狙い目だったので Tab S8 (無印) は完璧にマッチした。

タブレットは「常に使うわけでもなく、娯楽のために使われるモノ」という使われ方が一般的なので、正直 8 ~ 10 万ポンと出せるもんじゃない。できる限り安く買いたいし、スペックはいい方が良いという二律背反が生まれる不思議な製品 (?) なので落とし所が非常に難しい。「iPad (無印) は削られすぎで嫌だし、Xiaomi Pad 5 はスペック不足、ワングレード上のタブレットが欲しい」という声のためにこの Galaxy Tab S8 は存在するのかも。そんな気がする。

  • 1
    Apple は 120 Hz に ProMotion という名前をつけてしまったから Pro モデル以外に “Pro” Motion を載せることができなくなってしまった説を推していきたい。
  • 2
    液タブにしては小さめなので上位モデルの Ultra をおすすめしたいところ。こちらは 14.6 インチ。
  • 3
    日本向けの Galaxy は Galaxy Notes に名称が変更されている。が、僕が買ったのは海外版なのでこのブログ記事では Samsung Notes に呼称を統一する。
  • 4
    激うまギャグ。
  • 5
    ported GCam をインストールすれば可能。